『中・高生のための現代美術入門 ●▲■の美しさって何?』

現代美術入門とあるけれど、副題に「●▲■の美しさって何?」とあるように抽象画について扱っている。なのでデュシャンとかウォーホルは出てきません。

抽象画とはなにかというとまた話がややこしくなってくるのだけど、簡単にいえば自然とか人物とかりんごとかそういう具体的なかたちをもたないものを描いた絵画のこと。

風景や人物や神話の中の出来事を扱った絵は、その歴史的な背景や、画家についての知識なんかがなくても、綺麗だなあとか迫力があるなあとかとりあえず楽しむことはできる。でも正方形だけが描かれた絵、一見すると何が描かれているのかわからない絵、黒一色が塗りたくられた絵なんかを見ても、ああ正方形が描いてあるなあとかそんな感想しかもてなくて面食らってしまう。ではどうすればそういう絵を楽しめるようになるか。著者は知識の必要性を訴える。

数学の公式が勉強しなくてはわからないように、絵画についても勉強しなければならないと。それはただみて自分なりにいいとか悪いとか感じればいいんだという風潮を暗に否定もしている。もちろん純粋に知識なしで見ることが悪いと言っているわけではないが、ただなんの知識もなく鑑賞してもせっかく鋭い感性を持っていても、言葉にできなくて結局ああ四角が描いてあるなあという感想しか出てこないのではせっかくの貴重な体験がつまらないものになってしまう。

 

本書では抽象画を代表するカンディンスキーモンドリアンマレーヴィチの3人、そしてその後のアメリカの画家たちを取り上げてその本質に迫っていく。

絵画に無秩序をもたらしたカンディンスキー、そこに秩序をもたらしたモンドリアン、そしてそこからさらに無駄を省き絵画を哲学まで高めようとしたマレーヴィチ。この3人がどのようにしてそういった絵画を描くにいたったのかそれぞれの足取りを順番にたどっていくうちに、だんだんと抽象画の見方がわかってくるという仕掛けだ。 

 

タイトルでもわかるように、もともと子供向けにポプラ社から出版された本だけあって非常にわかりやすい。あとがきに描いてあったが、編集者に「優れた児童書ほど大人が読むものですよ」と説得されて平凡社ライブラリーとして再刊されたそうだ。長年広く読まれている名著。 

 

中・高生のための現代美術入門 ●▲■の美しさって何? (平凡社ライブラリー)
本江 邦夫
平凡社
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