映画は10年を映す鏡たりえただろうか『ゼロ年代アメリカ映画100』
一つ一つ見てもわからないが、集めてみると見えてくるものがある。
本書はゼロ年代のアメリカ映画の中から代表的なものを100本選ぶことによって、ゼロ年代のアメリカそのものを映し出そうという試みだ。
集められたそれぞれの映画評を読むのもいいけれど、その合間に挟まれるコラムが面白い。
映画評論家の町山智浩はハリウッド資本と賞レースの裏事情を語る。
実はアカデミー会員には俳優が最も多く、次に脚本家が多いのだそうだ。だから斬新な脚本の映画はアカデミー賞を取りやすいし、またCGでできたキャラクターが主人公を演じた「アバター」はアカデミー賞に選ばれなかったとのこと。
スターとして活躍する俳優たちの傾向について分析した、大森さわこ氏のコラムも興味深い。
90年代を代表するスターであるケビン・コスナーやハリソン・フォード、トム・クルーズなどは、警察や諜報部員のような役柄を通じて、アメリカの正義や良心を代弁していた。
ところがゼロ年代に活躍したブラッド・ピット、ジョニーデップ、レオナルド・ディカプリオなどは、好んでダークな役柄を演じるようになった。それには〈9.11〉の影響もあるだろう。イラク戦争など経験して以降アメリカは、90年代のような単純な正義を掲げることができなくなってしまった。そうして出てきたのが彼らブラピやジョニデなどのダークな面も演じることのできる俳優たちだったのだ。
しかしそのせいでハリウッド映画から以前もっていたわかりやすさが失われて、それがゼロ年代のハリウッド映画の日本での興行的な不振につながったのではないかとの指摘だ。
もちろん本書は、ゼロ年代アメリカを代表する映画や映画監督の作品からチョイスしているので単に映画ガイドとして読んでもいい。載っているのはいずれ劣らぬ秀作ぞろいだ。