愚か者がヒーローの夢をみる『ジョニー・イングリッシュ 気休めの報酬』

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Mr.ビーンのローワン・アトキンソン主演のスパイ・コメディ。タイトルからして007のパロディだが、単なるパロディやギャグに終始することなく、スパイ映画としてもきちんと成立しているところが魅力。

パロディだからといってふざけているわけではなく、キャスティングの顔ぶれやスケールの大きさ、オープニングからエンドロールに至るまで007の新作と言われても遜色ない本格的なスパイ映画に仕上がっている。ただしジョニー・イングリッシュを除いては。伝統的なスパイ映画の世界観にMr.ビーンを放り込んだだけで、こうも爆笑コメディに変わってしまうとは。

 

諜報機関MI7のエースだったのも今は昔。モザンピークでの任務でヘマをしたジョニー・イングリッシュはチベットの僧院で失意の底にあった。そこに祖国からのミッションの要請が下る。目的は中国首相の暗殺の阻止。トラウマとなったモザンピークでの無残な失態から周囲の信頼と自信を取り戻すべく彼は動き出す。

しかしそんな彼に追い打ちをかけるように、情報提供者をあっさり目の前で殺され暗殺者には逃げられ秘密兵器を発動するための鍵は奪われ、と次々に失態をやらかす。まさにどんなミッションもインポッシブルにする男。だがそうして暗殺者の正体を追っていくうちに、MI7内に黒幕がいるという情報を手にする。

その情報をもとに、黒幕の正体についてMI7のエースであるサイモンに相談する。彼こそはイングリッシュにとってジェームズ・ボンドのような究極の憧れ。ヘマを繰り返す自分にとっての最高の理想像だ。実はサイモンが黒幕なのだが。

相棒の新人スパイであるタッカーにサイモンが黒幕であることを指摘されるも、その事実を認めようとしないイングリッシュ。果たしてイングリッシュはサイモンを乗り越え、真のヒーローになることができるのか――

というわけでこのサイモンという人物はプロット上非常に重要な役割をもっているのであるが、どうにもこのキャラクターが薄っぺらい。組織を裏切るにもかかわらずその動機が語られず、またイングリッシュが憧れるような優れた人物であるという描写もない。サイモンのキャラクターの掘り下げ不足は少しもったいないところだ。

 

とはいえそんなことが気にならないくらい映画は面白い。ローワン・アトキンソンは見ているだけでニヤニヤしてしまうし、緊張感の全くない追跡シーンや、カーチェイスならぬホイールチェアチェイス(ゴロが悪いな)、自由が利かない右手を必死に左手で止める両手の攻防、とあまりにも馬鹿馬鹿しすぎるアクションシーンの連続に笑いは絶えない。

映画の最後に少し長めのおまけ映像があるからエンドロールが流れてもすぐに席をたってはいけないぞ。